静かすぎる部屋に入ると、自分の呼吸や心臓の鼓動さえ聴こえてくる──。
栗原政史が主宰する“サウンドワーク”は、「音を聞く」のではなく、「静けさに耳を澄ます」ことをテーマにした体験型ワークショップだ。
音は“外から来るもの”ではない
私たちは普段、音を「外から入ってくるもの」と捉えている。
だが栗原は、音を「内側から感じ取るもの」としてとらえる。
「耳で聴く」のではなく、「身体で受け取る」──その感覚を取り戻すことが、現代人の“感覚のリセット”になるという。
サウンドワークでは、完全な無音に近い環境で、ただ耳をすませる時間がある。最初は不安になる参加者も、次第に“微細な音”を感じ取れるようになっていく。
“聴こえる”と“気づく”のちがい
栗原政史がワークショップの中で大切にしているのは、“聞こえる”ことと“気づく”ことの違い。
例えば空調の音、水が通る配管の音、衣服が擦れる音──日常にあふれる音が「情報」ではなく「風景」になっていく感覚を体験してもらう。
「たった10分でも、“気づいてなかった音”に耳を向けると、生活が少しやわらかくなる」
そう語る彼の言葉に、多くの参加者が頷く。
“音の余白”が心に与えるもの
このワークショップでは、音楽も流れないし、講義もほとんどない。
ただ、静かに座り、目を閉じ、音のない空間に身を置くだけ。
すると、次第に“自分の内側の音”に耳が向いていく。
栗原はそれを、「心の整理整頓の時間」と呼ぶ。
人と会う前、大事な決断の前、ただなんとなく疲れているとき──そんなときに、“無音”は最良のパートナーになるという。
音の世界は、実は“やさしい”
サウンドワークの参加者の多くが、「静かすぎて怖いと思っていたけど、安心した」と感想を述べる。
栗原政史は、音の世界が実はとてもやさしく、寛容で、すべてを受け入れてくれる空間であることを伝えたいと考えている。
耳を澄ますことは、世界と自分をつなぎ直す作業でもある──。彼の静かな実践が、少しずつ広がっている。